石畳の猫 #01

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「ネコのどういうところが好きですか?」

最近改めて問われることが多くなりましたが、これほど簡単で難しい質問はありません。何が、、、ってもう、その存在そのものが憧れなのですから。それでも強いて言うならば、私はネコの後ろ姿に、なんとも言えない哀愁を感じ、その魅力にはまっています。そして例えばヨーロッパの石畳を歩く時、その景色はすでに美しいのですが、そこに猫が佇んでいてくれたなら、私にとってそれが完璧な風景となるに違いありません。

そんなわけで、これからつぶやくコラムのタイトルは「石畳の猫」とすることにしました。

ネコ歴32年。歴代6匹のネコと暮らしてきた私のネコへの想い。ネコ好きさんたちとその想いを共有できたら嬉しいです。

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そして第一回目のテーマは少し切ないのですが、「看取りについて」にしました。きっとたくさん方が、私と同じく「ネコのおくりびと」としての時間を経験をしてきたと思います。あるいはいつか訪れるその日に不安を抱えているかもしれません。4匹のネコたちを見送ってきた私にとって、ネコと過ごすさいごの日々は奇跡の連続でした。

少し長くなりますが、お付き合いいただけたら嬉しいです。

 

今年7月。一匹のネコとの別れがありました。

 

グレーの雄ネコ「リッカ」。その最期の日々を映像に残し、番組で放送されたことで沢山の反響をいただきました。19年近い年月を共に過ごしたリッカとの別れは、もちろん悲しいものでしたが、私がその最期の時間と向き合うことができたのは、実は最初に飼ったネコ「ミリオン」のおかげと言えます。もう15年以上前になりますが、「なかなおり」というタイトルでミリオンとの別れを書きました。時は経ても、この時の体験は私の中に強く残り、今もその時間は輝いています。

 

「なかなおり」

 

18才で一人暮らしを始めた私の傍らには、その2ヶ月後から生活を共にしてきた1匹のネコがいました。

新宿の伊勢丹にある屋上で目が合ったのが きっかけでしたが、毛玉のような愛くるしい 姿に一目惚れしてしまい、閉店まで悩んだ末 の衝動買いでした。

生後2ヶ月足らずの雄のヒマラヤン。

それまで動物を飼ったといえば、セキセイインコに始まり、緑亀、ハムスターまででしたから、子猫を部屋に持ち帰った日は、お互 いが見つめあい、探りあいながら緊張した時間を過ごしました。

当時住んでいたマンションの家賃と同額だったヒマラヤンで可哀想にも「家賃」と呼ばれると振り返る様になり、それではあんまりだと値段を上げて、「ミリオン」と命名したのでした。

それから16年の年月を、同居人として暮らし、2000年、10月1日、静かに私の腕の中で 眠るように息をひきとりました。

ペットは、いつか死んでしまう時の事を考えると辛いから飼いたくない、と言う人も沢 山います。私自身、自分の分身となってしま ったミリオンの死については、年をとっても元気で走り回る姿に、その日は永遠に来ない様な錯覚に陥っていたのです。

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でもその日は、突然に訪れました。

地方での仕事が続いていた私が無事に仕事を終えて東京に戻り、再び海外に出発するまでのわずか3日の休みの間に、ミリオンは急激に死へと向かいはじめたのです。

まるで私のスケジュールに合わせてくれたかの様に食べることを拒否し静かに刻々と違 う世界に行く準備をしているようでした。

病院での治療も無駄だと分かり、自宅で看取りたいという意志を尊重してもらい、その 3日間は徹夜で、意識の朦朧とするミリオン に付いてまわり、泣きながら「死なないで、 死なないで」とばかりくり返していました。

今思うと、私がお別れを覚悟出来るまで ミリオンのほうが気を使い、最後の命の灯火 を必死に持続させようとしてくれていた気がします。

「死なないで」と願う私の言葉が「ありがとう」と変わった時、泣きつかれている私の元でスッと立ち上がり、もう諦めていた餌を淡々と食べる凛々しい姿を見せてくれました。

そして翌日、心臓の鼓動が止まり、何度も小さなため息を付くようにのどを鳴らし、そ のまま天国へと旅立ったのです。

後から聞くところによると、多くの飼い猫 が、死を迎える前夜、飼い主に対して一瞬だけ、元気な姿を見せることがあるのだそうです。その事を「なか直り」という言葉で表現するのだそうですが、文字どうり、人間と動物との間の仲直りなのかもしれません。

会話を交わす事は出来ませんが、その分大きな愛情と生命の尊さを教えてくれました。

ペットロス症候群になるだろうという不安は、常々持っていましたが、現実には、あまりに潔く、美しい死への姿に直面したことで悲しみよりも、感動と感謝の気持ちだけが残りました。

分身をなくし、自分が半分になってしまいそうな心細さとは全く逆に、これからはずっと側にいてくれる心強さと暖かさを与えてくれたようです。

生まれてきたものには、必ず終わりが訪れ ます。当たり前のそのことが、あまりに非現実的でその事を忘れて生きてしまいますが、 私の心臓も最期の鼓動を打つ時は必ずくる事 を今さらながら痛感させられました。

今はただ、「ありがとう」という言葉を百万回繰り返しても、足りないくらい感謝の気持ちでいっぱいです。

どうか天国で安らかに・・・。

 

Text by Maiko Kawakami

 

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川上 麻衣子
Maiko Kawakami

1966年2月5日スウェーデン・ストックホルム生まれ。女優・ガラスデザイナー。
1980年14歳の時、NHKドラマ人間模様「絆」で芸能界デビュー。
同年、「3年B組金八先生」(TBS)で生徒役を好演し、注目される。
以後、テレビ「青が散る」(TBS)「トライアングルブルー」(CX)「恋も2度目なら」(NTV)連続テレビ小説「おしん」(NHK)大河ドラマ「秀吉」(NHK)「牡丹と薔薇」(東海TV)、映画「幸福」(市川 昆監督)「それから」(森田芳光監督)「うれしはずかし物語」(東 陽一監督)「その男、凶暴につき」(北野 武監督)「GONIN」(石井 隆監督)「一枚のハガキ」
(新藤兼人監督)など、数々のテレビ、映画、舞台で活躍。
映画「でべそ」(望月六郎監督)では、第6回日本映画プロフェッショナル大賞主演女優賞受賞。
2010年スウェーデンの教育絵本シリーズ「愛のほん」「死のほん」(小学館)を翻訳出版。
2015年「彼の彼女と私の538日~猫からはじまる幸せのカタチ~」(竹書房)を出版。
北欧のガラス工芸に魅せられ、自らがデザインした作品展を各地で開催。小樽ふれあい観光大使を務めるなどガラスデザイナーとしても幅広く活動している。