妄想猫 #02

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うっとり顔が素晴らしい外川猫

 

外川猫

猫が飼えない猫好きは、どうやってその寂しさをまぎらわしているか。

一番手近なのはノラをからかうことである。

近所のノラは、もちろん全員顔見知り。

それに飽きたらず、西に人なつこいノラがいると聞けば飛行機に乗り、東に癒しのノラがいると聞けば電車に乗って出掛ける。そうして数十分間の交歓を楽しむのであります。

 

このあいだは千葉の銚子に行ってきた。

といっても、それはノラ目当ての旅ではなかった。「おいしい缶詰を求めて銚子をひとり旅」という、JRから依頼された旅行記の仕事だった。

 

当日、東京駅発「特急しおさい」に乗って、銚子の情報誌を眺めていた。すると、外川(とかわ)という地域にノラがたくさんいて、「愛らしい外川猫がお出迎え」と書いてあるではないか。

 

これはもう、行かねばならぬ。

でも、ノラに会いに行く予定はなかった。JRとは事前に旅程を決めてあり、そこからあまり逸脱したルートに進むのはためらわれた。

 

(むっ…。内緒で行くか)

 

謀略である。

外川というのは銚子電鉄の終着駅になる。だから、銚子駅から銚子電鉄に乗り、外川駅まで往復することになる。外川ではノラとの交歓のため、小1時間ほど滞在したい。

スマホで時刻表を調べ、今日の旅程とすり合わせてみた。

銚子電鉄は日中、1時間に1本しか走っていない。それを考えると、昼に予定していた取材が夕方にずれこんでしまう。1泊なので夜も明日も予定はいっぱいである。

さて、どうするか…。

 

外川猫をあきらめる→社会人として当たり前

外川猫に会いに行く→社会人として問題あり

 

結局どうしたかというと、会いに行ったのだ。

外川は坂の町で、駅から海に向かう坂道が幾筋がある。それと交差して、車も通れないような路地がたくさんある。

そこに外川猫がいたのだ。

 

カメラを向けて声をかけると、こちらに走り寄ってきた。すねや手に頭をこすりつけ、尻尾を巻き付けてくる。

カメラのピントは合わないが、こんなに嬉しいことはない。

 

近くにいた他のノラもやってきて、合計3匹でしばらく遊んだ。

海面が陽光できらめき、草地のノラはうっとり転がる。

ヤクルトの配達のおばさん以外、人がまったく通らない。

 

結局、外川猫との交歓を最優先し、そのあとタクシーを飛ばして何とか帳尻を合わせたのだった。

 

Text by 黒川勇人(缶詰博士)

kurokawa

「缶詰博士」(公益社団法人日本缶詰協会公認)としてテレビ・ラジオ・雑誌・新聞など様々なメディア出演や執筆活動で活躍。現在までに世界46カ国を取材。数千缶の缶詰を味わっている。もちろん、ペット用の猫缶に関してもオーソリティ。大の猫好きだが、今は一緒に暮らす猫は居ず、猫との暮らしを妄想する日々。